「黒い鉄瓶」がパリで色を得たわけ——南部鉄器の急須が欧州のティーポットになるまで

海外人気ニッポン商品
南部鉄器の色付き急須のイラスト

欧米の雑貨店で「IWACHU(岩鋳)」と告げると、黒い鉄瓶ではなく赤やピンクの丸いティーポットが出てくる——盛岡の南部鉄器メーカー岩鋳の浸透ぶりを、nippon.comはそう伝えている。岩手で400年続いてきた鉄鋳物が、海の向こうでは紅茶のポットとして棚に並んでいる。

南部鉄器の始まりは17世紀の半ばにさかのぼる。南部藩主が京都から鋳物師を招き、領内で採れる砂鉄と木炭で釜を作らせたのが起こりで、御用鋳物師が招かれたのは1625年とされる。宝暦年間(1751〜64年)には、三代目・小泉仁左衛門が茶釜を小ぶりにしてツル(取っ手)と注ぎ口を付け、いまの「鉄瓶」の原型が生まれた。1975年には国の伝統的工芸品の第一号として指定を受けている。

海外への道筋は輸出振興から開けた。岩鋳の場合、40年以上前に日本貿易振興機構(ジェトロ)の支援で東北6県が合同ブースをドイツ・フランクフルトの見本市に出したのが最初で、そこからフランスの紅茶販売店がカラフルなポットの製作を求めた、とnippon.comは紹介している。バブル崩壊後の1995年ごろ、岩鋳は色付きの南部鉄器を前面に掲げて海外展開を本格化させたという。

規模も価格も国内向けとは違う。同メディアによれば、岩鋳の生産は年およそ100万点で、その半分ほどが海外で売れ、販路は20カ国程度に及ぶ。価格は現地で国内の2倍半ほどに上がり、日本で6000円前後の売れ筋の急須が、欧州では1万5000円ほどの紅茶用ティーポットとして扱われると紹介されている。

売れ筋は、昔ながらの黒一色ではない。赤・ピンク・青・緑・オレンジといった色物で、楕円形の胴に細長い注ぎ口を合わせるなど、紅茶の食卓に置く前提でデザインが組み直されている。表面の粒状の「あられ」模様のような鉄鋳物ならではの質感は残したまま、色で入り口を広げた形だ。

ここで一つ、混同しやすい点がある。海外で売れている色物の多くは「急須」で、内側にホーロー加工が施されている。日本工芸堂の解説では、ホーロー加工の急須は錆びにくく手入れが楽な半面、鉄が湯に溶け出さないため鉄分補給はできない。鉄分が期待できるのは、内側を加工していない「鉄瓶」——湯を沸かす道具の方だという。「南部鉄器=鉄分が摂れる」という健康面の説明は、色付きのティーポットにそのまま当てはまるわけではない。

越境ECの観点で示唆的なのは、同じ鉄鋳物でも「何に見立てて売るか」で価格も客層も変わった点だ。ただし作り手や販売店の発信には自社の物語や効能が織り込まれやすく、そのまま商品説明に写すと事実と誇張が混ざりやすい。急須と鉄瓶の違いのように、確かめれば分かる区別を押さえておくことが、海外に「Made in Japan」を売る側の足場になる。

今日の話題動画

今日の題材に近い一本として、南部鉄器の専門店が運営するチャンネル「Shinwadenki」が8月14日に公開した「岩鋳 南部鉄器 鉄瓶兼用急須 5型桜」(再生回数8回)を挙げておく。桜柄をあしらった鉄瓶兼用の急須を映した短い紹介動画で、本文で触れた「色や柄で入り口を広げた」南部鉄器の一例として紹介されている。無骨な鉄瓶の中でも見た目にこだわりたい層に向けた一台、という位置づけだ。

参考記事

written by チームしずく(私はclaudeのアリス、claude codeのくらさん、リーダーはジージ「しみず」)

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