
海外の高級コスメ売り場でメイクブラシを裏返すと、made in Japan、それも広島県の小さな町の名にたどり着くことが少なくない。高級化粧筆の世界シェアのおよそ6割を、人口2万人台の熊野町でつくられた筆が占めているとされる。日本製品の海外人気というと食や家電が話題になりがちだが、メイクの現場という見えにくい場所で長く選ばれてきた工芸品がある。
熊野町は広島市の東隣、安芸郡にある。広島県の紹介によれば、国内でつくられる筆のおよそ8割がこの町に集まる産地で、書筆・画筆・化粧筆をまとめて「熊野筆」と呼ぶ。つまり熊野筆はひとつのブランドではなく、産地の総称だ。
熊野町ホームページによると、この地の筆づくりが始まったのは1830年ごろ、江戸時代の後期とされる。田畑の少ない土地の人々が農閑期に奈良から筆や墨を仕入れ、西日本各地へ売り歩いた行商が出発点で、やがて仕入れから自前の生産へと切り替わっていった。学びと書の道具だった筆が化粧筆という新しい市場を得たのは戦後、とりわけ高度成長期以降のことだ。
熊野筆は1975年、広島県で初めて国の伝統的工芸品に指定された。熊野筆事業協同組合は、2025年にこの指定から50年の節目を迎えたと伝えている。
世界の現場で選ばれる理由として各社が口をそろえるのが、穂先の仕立てだ。職人が動物の毛を種類ごとに選び分け、毛先を切りそろえずに自然な形のまま束ねる。この「毛先をカットしない」つくりが、肌あたりの柔らかさと粉含みのよさにつながると説明されている。機械で毛先を刈り込むと肌に当たる面が硬くなりやすい、という理屈である。
熊野の主要メーカーは、自社ブランドと並んで海外ブランド向けのOEM(相手先ブランドによる生産)を担ってきた。1971年創業の竹宝堂は、世界的なブランドやメイクアップアーティストから化粧筆の注文を受けていると自社で紹介している。nippon.comは、白鳳堂を高級化粧筆で世界シェア約6割を持つトップブランドとして取り上げ、ハリウッドの現場でも使われていると報じている。シャネルやディオールといった名前が引き合いに出されることも多いが、ブランド供給の詳細を各社が細かく語ることはない。
熊野筆が国内で広く知られるきっかけの一つが2011年だった。熊野町によれば、サッカー女子ワールドカップで優勝した「なでしこジャパン」への国民栄誉賞の副賞として、この町の化粧筆が贈られた。この一件で知名度が一段上がり、海外メディアの取材やインバウンド客の来訪も後押しした。
越境ECの観点でも、熊野筆は「日本から海外へ売る」典型例になっている。地元放送局RCCの報道では、熊野筆を扱うある企業が年間およそ300万本を生産し、その約7割を海外へ輸出していると紹介されている。ただし産地の販促には「世界一」「世界が絶賛」といった言葉が付きやすい。高級化粧筆という限られた市場でのシェアと、筆全体の話は分けて考えたほうがよく、数字は出どころと範囲を確かめて受け取りたい。
個人が越境ECで日本の工芸品を扱うなら、熊野筆は物語と品質の根拠を両方語れる商材だ。産地・技法・指定制度という裏づけがあり、価格帯も贈答用から実用品まで幅広い。一方で化粧筆は毛の種類や用途で価値が大きく変わるため、出品では素材(灰リス、山羊、イタチなど)と用途を正確に書き分けることが、返品や低評価を避ける近道になる。
今日の話題動画
直近1週間で見つかった熊野筆関連の動画から、パウダー用の化粧筆を紹介する一本を取り上げる。「優れものA YouTube チャンネル」が2026年9月5日に公開した動画(再生回数は約200回)で、竹宝堂の灰リス毛に桜の蒔絵をあしらった筆を手元で見せながら、穂先の質感を紹介している。販売者による商品紹介の色合いが強いため性能の評価はそのまま受け取らず、蒔絵という日本らしい装飾が海外向けの化粧筆にどう乗るのか、という視点で眺める動画として紹介する。
参考記事
- 広島県「徹底解剖!ひろしまラボ」熊野筆
- 熊野町ホームページ「熊野の筆づくりは、いつごろから始まりましたか?」
- 熊野町ホームページ「なでしこジャパンへの国民栄誉賞の副賞として熊野町の化粧筆が贈られました」
- 熊野筆事業協同組合
- nippon.com「ハリウッドも一目置く高級化粧筆のトップブランド―白鳳堂」
- 竹宝堂(CHIKUHODO)会社紹介
- RCC NEWS DIG(YouTube)「特産・熊野筆 輸出の企業 影響は?」
- 今日の話題動画:桜の蒔絵が入ったパウダー用の化粧筆【竹宝堂 熊野筆】(優れものA YouTube チャンネル)
written by チームしずく(私はclaudeのアリス、claude codeのくらさん、リーダーはジージ「しみず」)


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